
人とのコミュニケーションが苦手で、会話が続かない、または自分のこだわりが強すぎて周囲と馴染めないと感じることは、日常生活や仕事に影響を及ぼすことがあります。単なる性格の問題ではなく、発達障害(ASD: 自閉スペクトラム症)や社会不安障害(SAD)などが関与している可能性もあります。症状が続く場合、当クリニックへご相談ください。
心に現れる主な症状
- 話しかけられてもどう返せばよいかわからない
- 会話がぎこちなく、相手の気持ちをうまく理解できない
- 自分の興味のある話題に強くこだわり、他の話題に興味が持てない
- 冗談や暗黙のルールが理解しにくい
- 友人関係が長続きしにくい
体に現れる主な症状
- 人と話すときに緊張しすぎて動悸がする
- 言葉が詰まりやすく、焦りを感じる
- 不安からくる胃痛や頭痛
- 社交の場を避けることで引きこもりがちになる
人とうまく話せない、こだわりが強いせいで
周囲と馴染めないことで起こりやすい主な病名
自閉スペクトラム症(ASD)
ASDの方は、1歳を過ぎた頃から兆候が現れ始めます。具体的には、人の目を見ることが少ない、ほかの子どもに関心がないなどの傾向が見られます。保育園や幼稚園に入っても一人遊びに興じて集団行動が苦手など、人との関わり方の独特さで気づくことがあります。相手の言うことがどこまで本気かわからなかったり、空気や行間を読むのが苦手だと感じたことはないでしょうか。思春期や青年期になると、自分と他者との違いに気づいたり、対人関係がうまくいかないことに悩んだりし、不安・うつ症状を合併するケースもあります。16歳以上の方であればAQ‐Jという検査をスクリーニングとして行う場合が多いですが、それ以下の年齢の方に対しては心理士の検査を受けていただく必要があります。検査予約については適宜お問い合わせください。
ASDの中心的症状である、対人コミュニケーションの障害に確実な効果が期待できる薬はいまだ存在しない状況ですが、周囲から受けるストレスへの耐性を増やすような薬や、怒りっぽさを改善するために使えるお薬はいくつかあります。そういった対症療法を行いながら、認知行動療法やソーシャルスキルトレーニングのような心理支援を行ったり、療育(治療教育)につなげたりしていくことがASDの治療、支援の方法と考えています。
社会不安障害
大勢の人前で重要な話をしなければならなかったり、初対面の人と会話をしたりするときなどは、誰でも緊張することがあります。しかし、その緊張が極度に強く、発言ができなくなったり、激しい動悸を覚えたり、吐き気などの症状がみられる場合は、社会不安障害の可能性があります。軽度の場合はとくに問題が起こらないこともありますが、患者さんによっては、外出を避けるようになって自宅に引きこもってしまうなど、日常生活に支障をきたすことがあります。さらに、うつ病やアルコール依存症を引き起こす危険性もあるので、早期に治療をはじめることが大切です。
社会不安障害の原因・症状
社会不安障害の詳しい原因は分かっていませんが、セロトニンという神経伝達物質が不足してしまうことが発症の一因ではないかと考えられています。セロトニンが不足する要因としては、過去に人前で恥ずかしい経験をしたことがある、他人の目を気にし過ぎる、さらには遺伝的要因などが指摘されています。主な症状としては、下表のように、人前で異常に緊張する、手足が震えたりするなどがあります。
治療
社会不安障害の治療は、大きく分けて心理療法と薬物療法があります。薬物療法は抗うつ薬であるSSRIや抗不安薬などが有効です。不安や緊張は一度経験するだけでまた同じ事が起こるのではないかと心配になってしまうものです。それを予防するために、お守りのように頓服のお薬を財布に入れておくだけで安心できるようになるのが治療の第一歩、いつの間にかその存在を忘れてしまうくらいになることがひとつのゴールと考えています。
また心理療法も同じくらい有効で、例えば認知行動療法などは有効な治療法となります。これはストレスなどで固まって狭くなってしまった考え方や捉え方、行動のバランスの偏りを自分の力で柔らかく解きほぐし、自由に考えたり行動したりするのをお手伝いする精神療法です。最近では精神科の治療としてだけではなく、法律、教育、ビジネス、スポーツなど、あらゆる領域で認知行動療法の考え方が取り入れられているようです。
適応障害
人はだれでも嫌なことがあれば落ち込みます。それは正常な反応です。ですが、それが度を過ぎれば病気になりますし、治療が必要になります。どんな症状が出るかは人によって様々です。気分が落ち込むなどのメンタル面の症状や、動悸・腹痛といった身体面の症状など、一つではなく複数の症状が現れることも多いです。こうしたストレスが原因となって様々な症状が出てきてしまう疾患が「適応障害」です。
適応障害の原因・症状
就学や就職、転職、結婚、離婚など、生活環境が大きく変わった際に発症するケースがよく見られます。ご本人が「新たな環境にうまく適応しなくては」と思ったとしても、なかなか思い通りにいかないことがあります。そのような環境変化のストレスが原因となりうるのです。多くの場合、生活の変化や強いストレスのかかる出来事が生じてから1ヶ月以内に発症すると言われています。
情緒的な症状としては、抑うつ気分、不安、怒り、あせり、緊張などがあります。身体症状としては、不眠、のどの異物感、胸の圧迫感、動悸、食欲不振、全身倦怠感、疲頭痛、肩こり、腹痛、めまいなどに悩まされます。
適応障害の治療
適応障害の治療に先立ち、まずは原因となっているストレスを軽くし、適応しやすい環境を整えることが重要になります。ただし、実際には環境調整が難しいケースも少なくないので、薬物療法を行います。不安や不眠などに対しては抗不安薬、うつ症状が強くうつ病の診断基準を満たしてしまいそうな場合には抗うつ薬を用いることもあります。またご希望に沿って漢方薬で治療を行うこともできます。
心理士による心理療法としては認知行動療法や問題解決療法を取り入れます。このうち認知行動療法では、ストレスの原因に対する受け止め方のパターンにアプローチし、ストレスにうまく対処できるように考え方の変容を促します。問題解決療法では、現在抱えている問題と症状自体に焦点を当てて一緒に解決策を見出していきます。こうした治療によって徐々に症状が改善していきます。