
誰にでも訪れる気分の落ち込みや不安。しかし、それが長く続いたり強い症状が出たりする場合は、専門家への相談が大切です。
心に現れる主な症状
- 理由のわからない落ち込みが続く
- 漠然とした不安が消えない
- 何事にもやる気が起きない
- 集中力が低下する
- 自己否定的な考えが増える
- 些細なことで涙が出る
- 人との関わりを避けたくなる
体に現れる主な症状
- 不眠や睡眠の質の低下
- 食欲の変化(増加または減少)
- 疲労感が抜けない
- 頭痛や肩こりがひどい
- 胃の不調や吐き気
- 動悸や息苦しさ
- 手足の震えや冷え
何となく気分が沈む・不安になる症状について
起こりやすい主な病名
うつ病
日常生活や社会生活の中で、一時的に気分が落ち込んだり、悲しい気持ちになったりすることが誰にでもありますが、通常は時間の経過とともに解消されていきます。しかし、この憂うつな気分が長期間にわたって続いてしまい、日常生活などに支障が出るようになっているときは、うつ病の可能性があります。男女別では、女性に多いと言われており、とくに妊娠や出産、更年期などによくみられます。若い世代だけでなく、加齢に伴う心身機能低下や社会的な役割喪失への不安などで起こる「老年期うつ病」もあります。
うつ病の原因・症状
うつ病の詳しい原因は分かっていませんが、ストレスがうまく処理されず、心と体のバランスが崩れ、脳の働きになんらかの問題が起きて発症すると考えられています。うつ病の患者さんに対して、「ご自身の頑張りが足りないからだ」、「甘えているせいだ」などの誤解を持っている方も少なくないですが、うつ病は医療機関での治療が必要な脳の病気です。下表のような症状がみられたときは、ご自身だけで悩まず、精神科を受診して専門の治療を受けるようにしてください。
うつ病の治療
うつ病の治療にあたっては、まず患者さんのお話をじっくりとお伺いしたうえで、主に薬物療法を行います。基本となるのは抗うつ薬ですが、この中には幾つかのタイプがあるので、患者さんの症状や状態に応じて使い分けます。なお、抗うつ薬による効果が現れ始めるまでに通常1週間~3週間かかります。効果が現れないからといって、すぐに薬を止めてしまうのはあまりおすすめできません。もし眠気やふらつき、吐き気などの副作用がでてきてしまうせいで内服の継続が困難となっているのでしたら他の選択肢をご提案することもできますので、ぜひご相談いただければ幸いです。
また、再発を防ぐために、完全に症状が無くなった後も飲み続けることが大切とされています。統計的には寛解後1年以内に40%、15年以内に85%の再発を認めると言われており、治療には非常に長期的な視点が必要です。寛解してから少なくとも1年程度は内服を継続した方が再燃リスクは下げられると診察室ではいつも説明していますが、それまでの経過やその時の状態によってはそれよりも早く中止することもできますので、お気軽にご相談して下さい。ただ一部のお薬は内服を続けておくことによって再発率が下げられる効果が認められているものもありますので、使っているお薬やそれまでの経過によっては「飲み続けておく方が安心」という場合もあります。抗不安薬や睡眠薬などを併用しながら、その時に一番合った選択を一緒に考えていきましょう。
薬物療法以外では、精神療法もよく行われます。これは心理的側面から精神疾患の治療を図る治療法のことであり、医師や心理カウンセラーなどが、患者さんとの対話を重ねて問題解決の方法を探します。例えば、認知行動療法によって物事の捉え方や問題となっている行動を見つめ直し、自分の陥りやすい思考や感情パターンを理解していきます。これによって心をうまくコントロールしていきます。
慢性うつ病(気分変調症)
慢性うつ病とは気分変調症(dysthmia)とも呼ばれており、常に、憂うつな気持ちが慢性的に2年以上継続し、抑うつ症状が中心で、食欲の変化や低下、不眠症・睡眠の変化、気力の減退や疲労感、自尊心の低下や自信の喪失、集中力の低下・生産性の低下、絶望感・悲観といった症状が中心の抑うつ症状が継続してしまう疾患です。
子供や青年では、怒りっぽい気分のこともあり、それが1年以上は続くと言われています。
成人期早期に発症することが多く、短くても数年間、ときには一生続くこともある慢性的な経過をたどりやすい疾患です。
気分変調症とは、人口の約5~6%がかかると報告されている程、珍しい病気ではありません。
典型的な「うつ病」と診断されるほど、抑うつ・憂うつ症状が強くないことが特徴で、比較的軽度の「抑うつ感」「憂うつ感」が長期に慢性的に継続していることが特徴です。
慢性経過であるために、「そういうもの」として本人が認識してしまっていることも多く、「病状」として本人が自覚する機会が比較的少ないのではと考えられ、「該当する方は、実はもっと多いのではないか」と考えられています。
慢性うつ病(気分変調症)の原因
男女差は大きく見られないものの、未婚の若年が多くなるなど、生活背景に影響した頻度が見られます。
心が繊細で、ちょっとした失敗でも「自分はダメだ」と考えて、クヨクヨと悩んでしまう性格の人に起こりやすい傾向があり、うつ病ほど深刻に見えないため、周囲の人も本人も病気と気付かず、「こういう性格なんだろう」「ちょっと悩みやすい性分なんだろう」と思ってしまい、気付かないうちに発症していることが多い疾患です。
また、経過の中でうつ病・パニック障害・全般性不安障害・アルコール依存症・パーソナリティ障害などが併存することがあります。
慢性うつ病(気分変調症)の治療
気分変調症の治療では、一般的には抗うつ薬などの薬物療法や、対人関係療法などの精神療法が行われます。SSRIなどの選択的セロトニン再取り込み阻害薬などが選択されることが多いですが、うつ病と異なり慢性経過することが特徴のため、通院に伴う精神療法で「性格ではなく適切な治療で改善する病気である」事を理解することがとても大切です。その上で本人の自己肯定感の低さや、無力感、自責感を修正することが大切となります。
適応障害
私たちの日常生活においては、様々な環境に適応していくことが求められています。職場や学校などでは、同僚や上司、部下、友人などと協力して仕事や勉強などを行いますが、その際に、ある特定の状況や出来事がとても辛く、耐えがたいと感じることもあります。こうしたストレスが原因となり、不安感などが強まったり、遅刻や欠勤などの問題行動が起こってしまう疾患が「適応障害」です。
原因・症状
就学や就職、転職、結婚、離婚など、生活環境が大きく変わった際に発症するケースがよく見られます。ご本人が「新たな環境にうまく適応しなくては」と思ったとしても、なかなか思い通りに事が運ばないことがあります。そのような環境変化のストレスが原因となりうるのです。多くの場合、生活の変化や強いストレスのかかる出来事が生じてから1ヶ月以内に発症すると言われています。
適応障害が起こると、情緒的な症状、身体症状、問題行動などに悩まされます。このうち情緒的な症状としては、抑うつ気分、不安、怒り、あせり、緊張などがあります。身体症状としては、不眠、食欲不振、全身倦怠感、疲れやすい、頭痛、肩こり、腹痛、めまいなどに悩まされます。さらに、問題行動として、遅刻、欠勤、暴飲暴食、ギャンブル中毒などが起こることもあります。
治療
適応障害の治療に先立ち、まずは原因となっているストレスを軽くし、適応しやすい環境を整えることが重要になります。ただし、実際には環境調整が難しいケースも少なくないので、薬物療法を行います。不安や不眠などに対しては抗不安薬、うつ状態に対しては抗うつ薬などが用いられます。さらに、認知行動療法や問題解決療法を取り入れます。このうち認知行動療法では、ストレスの原因に対する受け止め方のパターンにアプローチし、ストレスにうまく対処できるように考え方の変容を促します。問題解決療法では、現在抱えている問題と症状自体に焦点を当てて一緒に解決策を見出していきます。こうした治療によって徐々に症状が改善していきます。