
幻聴などの幻覚症状や、「周囲に悪く思われている」といった被害的な考えが続く場合、統合失調症などの精神疾患の可能性があります。これらの症状は、本人の生活や対人関係に大きな影響を及ぼすことがあり、早期の診断と治療が重要です。
心に現れる主な症状
- ないはずの声や音が聞こえる(幻聴)
- 周囲の人が自分を監視している、悪口を言っていると感じる
- 些細な出来事を自分に関係があると考えてしまう
- 他人の言動に対して強い疑念や不信感を抱く
- 自分の考えが他人に伝わってしまっていると感じる
体に現れる主な症状
- 緊張や不安による動悸や発汗
- 睡眠の質の低下(眠れない、浅い眠りが続く)
- 食欲低下や体重の変化
- 頭痛や倦怠感が続く
幻聴などの幻覚症状や、周囲に悪く思われていると
感じてしまうことで起こりやすい主な病名
統合失調症
統合失調症は考えや気持ちがまとまらなくなる状態が続く精神疾患で、その原因は脳の機能にあると考えられています。幻覚や妄想、興奮などの激しい症状が出現したり、意欲の低下や感情の起伏の喪失などによって日常生活に支障をきたすケースも多くなります。約100 人に1 人がかかるといわれており、決して特殊な病気ではありません。思春期から40歳くらいまでに発病しやすい病気です。薬や精神科リハビリテーションなどの治療によって回復することができます。
統合失調症の原因・症状
統合失調症の詳しい原因は分かっていませんが、遺伝的な要因と環境的な要因が関係していると考えられています。また、統合失調症にはいくつかの症状がみられますが、代表的なものとして、陽性症状、陰性症状、認知機能障害の3つがあります。このうち陽性症状は、存在しない声が聞こえる、現実にはないものをあるように感じる、あり得ないことを信じ込むなどです。陰性症状は、喜ぶ、怒る、哀しむなどの感情が乏しくなるものです。表情の変化も少なくなります。認知機能障害は、物事を記憶したり、注意を集中させたり、計画を立てたり、判断したりする能力が低下することをいいます。
統合失調症治療
統合失調症の治療は、主に薬物療法となります。中心になるのは抗精神病薬です。これは陽性症状にかなり効果があります。これまでは副作用ありきの治療が一般的とされていましたが、2000年代初期から副作用のかなり少ない抗精神病薬が一般的に使用されるようになってきました。ただそれでも、時として体が硬くなったように感じたり、手足がふるえたり、落ち着きがなくなるという副作用が出てくる方もおられます。少しでも「おかしいな」と感じたらいつでもご相談ください。薬の量を調整したり、種類や組み合わせを変えることで、副作用を抑えることが可能です。薬を飲むことを完全にやめてしまうと、再び症状が出てくることがあります。また、再発を繰り返すと症状が強くなり、治りにくくなります。薬には再発を予防する作用がありますから、薬を続けることはとても重要です。毎日薬を飲むのが面倒であれば、当院では1回の投与で2〜4週間効果が続く持続性注射剤のご用意もありますので、お気軽にご相談ください。
患者さんによっては、薬物療法に加えて、精神科リハビリテーションを行うこともあります。具体的には、病気の知識やストレス対処法を学ぶ心理教育、人間関係をうまく進める方法などを練習する社会生活技能訓練、記憶力や集中力などをつけるための認知機能リハビリテーションなどがあります。
社会不安障害
大勢の人前で重要な話をしなければならなかったり、初対面の人と会話をしたりするときなどは、誰でも緊張することがあります。しかし、その緊張が極度に強く、発言ができなくなったり、激しい動悸を覚えたり、吐き気などの症状がみられる場合は、社会不安障害の可能性があります。軽度の場合はとくに問題が起こらないこともありますが、患者さんによっては、外出を避けるようになって自宅に引きこもってしまうなど、日常生活に支障をきたすことがあります。さらに、うつ病やアルコール依存症を引き起こす危険性もあるので、早期に治療をはじめることが大切です。
社会不安障害の原因・症状
社会不安障害の詳しい原因は分かっていませんが、セロトニンという神経伝達物質が不足してしまうことが発症の一因ではないかと考えられています。セロトニンが不足する要因としては、過去に人前で恥ずかしい経験をしたことがある、他人の目を気にし過ぎる、さらには遺伝的要因などが指摘されています。主な症状としては、下表のように、人前で異常に緊張する、手足が震えたりするなどがあります。
治療
社会不安障害の治療は、大きく分けて心理療法と薬物療法があります。薬物療法は抗うつ薬であるSSRIや抗不安薬などが有効です。不安や緊張は一度経験するだけでまた同じ事が起こるのではないかと心配になってしまうものです。それを予防するために、お守りのように頓服のお薬を財布に入れておくだけで安心できるようになるのが治療の第一歩、いつの間にかその存在を忘れてしまうくらいになることがひとつのゴールと考えています。
また心理療法も同じくらい有効で、例えば認知行動療法などは有効な治療法となります。これはストレスなどで固まって狭くなってしまった考え方や捉え方、行動のバランスの偏りを自分の力で柔らかく解きほぐし、自由に考えたり行動したりするのをお手伝いする精神療法です。最近では精神科の治療としてだけではなく、法律、教育、ビジネス、スポーツなど、あらゆる領域で認知行動療法の考え方が取り入れられているようです。
適応障害
人はだれでも嫌なことがあれば落ち込みます。それは正常な反応です。ですが、それが度を過ぎれば病気になりますし、治療が必要になります。どんな症状が出るかは人によって様々です。気分が落ち込むなどのメンタル面の症状や、動悸・腹痛といった身体面の症状など、一つではなく複数の症状が現れることも多いです。こうしたストレスが原因となって様々な症状が出てきてしまう疾患が「適応障害」です。
適応障害の原因・症状
就学や就職、転職、結婚、離婚など、生活環境が大きく変わった際に発症するケースがよく見られます。ご本人が「新たな環境にうまく適応しなくては」と思ったとしても、なかなか思い通りにいかないことがあります。そのような環境変化のストレスが原因となりうるのです。多くの場合、生活の変化や強いストレスのかかる出来事が生じてから1ヶ月以内に発症すると言われています。
情緒的な症状としては、抑うつ気分、不安、怒り、あせり、緊張などがあります。身体症状としては、不眠、のどの異物感、胸の圧迫感、動悸、食欲不振、全身倦怠感、疲頭痛、肩こり、腹痛、めまいなどに悩まされます。
適応障害の治療
適応障害の治療に先立ち、まずは原因となっているストレスを軽くし、適応しやすい環境を整えることが重要になります。ただし、実際には環境調整が難しいケースも少なくないので、薬物療法を行います。不安や不眠などに対しては抗不安薬、うつ症状が強くうつ病の診断基準を満たしてしまいそうな場合には抗うつ薬を用いることもあります。またご希望に沿って漢方薬で治療を行うこともできます。
心理士による心理療法としては認知行動療法や問題解決療法を取り入れます。このうち認知行動療法では、ストレスの原因に対する受け止め方のパターンにアプローチし、ストレスにうまく対処できるように考え方の変容を促します。問題解決療法では、現在抱えている問題と症状自体に焦点を当てて一緒に解決策を見出していきます。こうした治療によって徐々に症状が改善していきます。