
集中力が続かず、仕事や勉強が思うように進まない。そんな状態が続くと、イライラや焦りが生じ、さらに物事に集中できなくなるという悪循環に陥ることがあります。このような症状は誰にでも起こり得るものですが、長期間続く場合は心や体からのSOSのサインかもしれません。
心に現れる主な症状
- 注意力や集中力の低下
- 些細なことでイライラする
- 考えがまとまらない
- 判断力や決断力の低下
- 記憶力の減退
- モチベーションの喪失
- 時間管理ができなくなる
- 完璧主義的な思考と自己批判の増加
- 将来への不安や心配が強まる
体に現れる主な症状
- 慢性的な疲労感
- 頭痛やめまい
- 肩こりや首の緊張
- 目の疲れ
- 不眠や睡眠の質の低下
- 胃腸の不調
- 食欲の変化
- 心拍数の上昇や動悸
- 免疫力の低下
集中できなくて仕事や勉強がはかどらず
イライラすることで起こりやすい主な病名
注意欠如・多動症(ADHD)
ADHDは、不注意や多動性、衝動性などの症状が現れている状態です。子どもであれば、どの子にも多かれ少なかれこのような特性がみられるものですが、ADHDは、不注意、多動性・衝動性が社会的、学業的、職業的活動に悪影響を及ぼす場合に、一定の基準をもって診断されます。
子どもに落ち着きがなかったり、公共の場で騒いだりすると、「親がちゃんと叱らないから」「しつけがなっていないから」「とてもわがままな子だ」「わざと人の嫌がることをする」などと周囲から思われがちです。
しかし、ADHDは脳の機能のかたよりにより、注意や行動をコントロールすることが難しくなる状態であり、子育ての失敗やしつけの不足によるものではありません。親は、子どもを動機づけたり、しつけたりすることに非常に苦労しています。また、子どもが自分なりに精一杯気を付けたとしても、自分自身をコントロールしきれません。親のせいでも、子どものせいでもない、というところから理解していくことが大切です。
調査によってばらつきはありますが、海外の研究1)にて、18歳以下でのADHDの有病率は約5%であることが報告されています。ですが、その現れ方は人によってさまざまで、例えば成長とともに多動性・衝動性が目立ちにくくなる場合もあります。また、ぼーっとした様子はみられても、友達と目立ったトラブルを起こすようなことが少ない場合には、特性に気づかれないこともあります。その子が何に困っているかを注意深く見て、支援につなげていく必要があるでしょう。
1)Guilherme Polanczyk et al.: The worldwide prevalence of ADHD: A systematic review and metaregression analysis. Am J Psychiatry. 164(6): 942-948, 2007
原因・症状
ADHDの主な原因は、遺伝的要因と脳内の神経伝達物質(特にドーパミンやノルアドレナリン)の機能異常が関与していると考えられています。環境要因も症状の表れ方に影響を与えることがありますが、発症の直接的な原因ではありません。成人のADHDでは、不注意症状として集中力の持続が難しく、仕事や日常の活動で細部への注意が欠け、ケアレスミスが多くなります。課題を順序立てて進めることに困難を感じ、締め切りを守れないことが多くなります。物忘れが多く、物をなくしたり、約束を忘れたりすることも特徴です。多動性・衝動性としては、じっと座っていられない、過度に話す、順番を待てないなどの症状が見られます。これらの症状により、仕事のパフォーマンスや対人関係に支障をきたし、自己評価の低下やストレスの増加につながることがあります。
治療
ADHDの治療は、薬物療法と非薬物療法を組み合わせた多面的なアプローチが効果的です。薬物療法には、中枢神経刺激薬(メチルフェニデートなど)や非刺激薬(アトモキセチンなど)があり、脳内の神経伝達物質のバランスを調整することで症状の改善を図ります。非薬物療法としては、認知行動療法が有効で、計画立案やタイム・マネジメントなどの実用的なスキルを習得します。また、環境調整も重要で、仕事や学習環境の整理、タスクの分割、視覚的なリマインダーの活用などが役立ちます。ADHDに対する理解を深め、自己肯定感を高めるためのカウンセリングも行われます。治療は個人の症状やライフスタイルに合わせて調整され、長期的な支援が必要なことが多いです。適切な治療により、多くの方が症状をコントロールし、充実した生活を送ることができるようになります。
うつ病
日常生活や社会生活の中で、一時的に気分が落ち込んだり、悲しい気持ちになったりすることが誰にでもありますが、通常は時間の経過とともに解消されていきます。しかし、この憂うつな気分が長期間にわたって続いてしまい、日常生活などに支障が出るようになっているときは、うつ病の可能性があります。男女別では、女性に多いと言われており、とくに妊娠や出産、更年期などによくみられます。若い世代だけでなく、加齢に伴う心身機能低下や社会的な役割喪失への不安などで起こる「老年期うつ病」もあります。
うつ病の原因・症状
うつ病の詳しい原因は分かっていませんが、ストレスがうまく処理されず、心と体のバランスが崩れ、脳の働きになんらかの問題が起きて発症すると考えられています。うつ病の患者さんに対して、「ご自身の頑張りが足りないからだ」、「甘えているせいだ」などの誤解を持っている方も少なくないですが、うつ病は医療機関での治療が必要な脳の病気です。下表のような症状がみられたときは、ご自身だけで悩まず、精神科を受診して専門の治療を受けるようにしてください。
うつ病の治療
うつ病の治療にあたっては、まず患者さんのお話をじっくりとお伺いしたうえで、主に薬物療法を行います。基本となるのは抗うつ薬ですが、この中には幾つかのタイプがあるので、患者さんの症状や状態に応じて使い分けます。なお、抗うつ薬による効果が現れ始めるまでに通常1週間~3週間かかります。効果が現れないからといって、すぐに薬を止めてしまうのはあまりおすすめできません。もし眠気やふらつき、吐き気などの副作用がでてきてしまうせいで内服の継続が困難となっているのでしたら他の選択肢をご提案することもできますので、ぜひご相談いただければ幸いです。
また、再発を防ぐために、完全に症状が無くなった後も飲み続けることが大切とされています。統計的には寛解後1年以内に40%、15年以内に85%の再発を認めると言われており、治療には非常に長期的な視点が必要です。寛解してから少なくとも1年程度は内服を継続した方が再燃リスクは下げられると診察室ではいつも説明していますが、それまでの経過やその時の状態によってはそれよりも早く中止することもできますので、お気軽にご相談して下さい。ただ一部のお薬は内服を続けておくことによって再発率が下げられる効果が認められているものもありますので、使っているお薬やそれまでの経過によっては「飲み続けておく方が安心」という場合もあります。抗不安薬や睡眠薬などを併用しながら、その時に一番合った選択を一緒に考えていきましょう。
薬物療法以外では、精神療法もよく行われます。これは心理的側面から精神疾患の治療を図る治療法のことであり、医師や心理カウンセラーなどが、患者さんとの対話を重ねて問題解決の方法を探します。例えば、認知行動療法によって物事の捉え方や問題となっている行動を見つめ直し、自分の陥りやすい思考や感情パターンを理解していきます。これによって心をうまくコントロールしていきます。
社会不安障害
大勢の人前で重要な話をしなければならなかったり、初対面の人と会話をしたりするときなどは、誰でも緊張することがあります。しかし、その緊張が極度に強く、発言ができなくなったり、激しい動悸を覚えたり、吐き気などの症状がみられる場合は、社会不安障害の可能性があります。軽度の場合はとくに問題が起こらないこともありますが、患者さんによっては、外出を避けるようになって自宅に引きこもってしまうなど、日常生活に支障をきたすことがあります。さらに、うつ病やアルコール依存症を引き起こす危険性もあるので、早期に治療をはじめることが大切です。
社会不安障害の原因・症状
社会不安障害の詳しい原因は分かっていませんが、セロトニンという神経伝達物質が不足してしまうことが発症の一因ではないかと考えられています。セロトニンが不足する要因としては、過去に人前で恥ずかしい経験をしたことがある、他人の目を気にし過ぎる、さらには遺伝的要因などが指摘されています。主な症状としては、下表のように、人前で異常に緊張する、手足が震えたりするなどがあります。
治療
社会不安障害の治療は、大きく分けて心理療法と薬物療法があります。薬物療法は抗うつ薬であるSSRIや抗不安薬などが有効です。不安や緊張は一度経験するだけでまた同じ事が起こるのではないかと心配になってしまうものです。それを予防するために、お守りのように頓服のお薬を財布に入れておくだけで安心できるようになるのが治療の第一歩、いつの間にかその存在を忘れてしまうくらいになることがひとつのゴールと考えています。
また心理療法も同じくらい有効で、例えば認知行動療法などは有効な治療法となります。これはストレスなどで固まって狭くなってしまった考え方や捉え方、行動のバランスの偏りを自分の力で柔らかく解きほぐし、自由に考えたり行動したりするのをお手伝いする精神療法です。最近では精神科の治療としてだけではなく、法律、教育、ビジネス、スポーツなど、あらゆる領域で認知行動療法の考え方が取り入れられているようです。
睡眠障害
睡眠障害とは、睡眠に関して何らかの障害が生じている状態です。代表的な疾患としては、不眠症があります。これは、「なかなか寝付けない」、「睡眠の途中で目が覚めてしまう」、「熟睡した感じがしない」といった症状が起こるため、日中に過剰な眠気に襲われてしまい、仕事や学業に影響がでるようになります。また、睡眠障害が長期間続くと、生活習慣病やうつ病になりやすくなったり、さらには内臓に負担がかかったりするので、健康に害を及ぼしてしまいます。
睡眠障害の原因・症状
睡眠障害は、環境的な要因や心理的要因、身体的要因、生活習慣的要因など、様々な原因が組み合わさって起こります。環境的要因としては、海外旅行からの帰国時、枕や寝具が合わない、部屋の温度が高すぎる、逆に低すぎる、周囲の音がうるさいといった要因があります。心理的要因には、家族などの親しい人の死、仕事のストレス、対人関係のトラブルなどが考えられます。身体的要因としては、糖尿病や高血圧などの生活習慣病、心臓病、呼吸器疾患、アレルギー疾患などが考えられます。主な症状としては、下表のようなものがあります。そのようなときは、お早めに当クリニックをご受診ください。
また不眠症の背景に適応障害やうつ病、双極性障害、統合失調症などが隠れている場合も多いです。その他にもベンゾジアゼピン系睡眠薬の連用によって耐性ができてしまっている場合や飲酒習慣のために眠りが浅くなってしまっている場合など、眠れないと一口に言っても様々な原因があります。
治療
睡眠障害の治療は、薬物療法と非薬物療法に大別されます。このうち薬物療法は、患者さんの症状に合わせたお薬を使用します。寝つきが悪い、途中で起きてしまう、早くに目が覚めてしまうといった症状に応じて、効果的な睡眠薬が処方されます。なお、服用していた睡眠薬をいきなり中止してしまうと、けいれんや意識障害、振戦、不眠や不安など様々な症状が現れる場合があります。処方されたお薬は、用法や用量を守って、正しく使用してください。
薬物療法だけでなく、生活習慣の改善などによる非薬物療法を行うこともあります。室温や部屋の明るさなどの環境要因を調節することにより、睡眠が得られやすくなります。音楽や読書などでリラックスし、睡眠障害が軽減することもあります。朝日をしっかり浴び、昼寝はしない、どうしてもしたければ15時前の2-30分だけにする、眠気を感じてから布団に入る、など日々の生活から改善できることはいろいろあります。手強い不眠の方には睡眠表をつけてもらい、その表をもとに日々の生活をどう改善していけばいいか一緒に考えていきます。