職場や学校などでのストレスからくるつらさ

日々の職場や学校でのストレスは、心と体に大きな影響を与えることがあります。ストレスによるつらさは誰にでも起こりうるものです。一人で抱え込まず、早めに専門家に相談することが大切です。

心に現れる主な症状

  • イライラや落ち着きのなさが続く
  • 気分が沈んで何もする気が起きない
  • 仕事や学業に集中できない
  • 些細なことで不安になる
  • 周囲の目が気になって仕方がない
  • 自分を責めてしまう気持ちが強くなる
  • 人との交流を避けたくなる
  • 将来に対して希望が持てない

体に現れる主な症状

  • 疲れやすく、だるさが続く
  • 頭痛や肩こりがひどくなる
  • 胃の痛みや食欲不振
  • 吐き気や胃部不快感
  • 睡眠障害(不眠や過眠)
  • 動悸や息苦しさ
  • 手足の震えや冷え
  • 急な体重の増減

職場や学校でのストレスによるつらさで起こりやすい
主な病名

うつ病

日常生活や社会生活の中で、一時的に気分が落ち込んだり、悲しい気持ちになったりすることが誰にでもありますが、通常は時間の経過とともに解消されていきます。しかし、この憂うつな気分が長期間にわたって続いてしまい、日常生活などに支障が出るようになっているときは、うつ病の可能性があります。男女別では、女性に多いと言われており、とくに妊娠や出産、更年期などによくみられます。若い世代だけでなく、加齢に伴う心身機能低下や社会的な役割喪失への不安などで起こる「老年期うつ病」もあります。

うつ病の原因・症状

うつ病の詳しい原因は分かっていませんが、ストレスがうまく処理されず、心と体のバランスが崩れ、脳の働きになんらかの問題が起きて発症すると考えられています。うつ病の患者さんに対して、「ご自身の頑張りが足りないからだ」、「甘えているせいだ」などの誤解を持っている方も少なくないですが、うつ病は医療機関での治療が必要な脳の病気です。下表のような症状がみられたときは、ご自身だけで悩まず、精神科を受診して専門の治療を受けるようにしてください。

うつ病の治療

うつ病の治療にあたっては、まず患者さんのお話をじっくりとお伺いしたうえで、主に薬物療法を行います。基本となるのは抗うつ薬ですが、この中には幾つかのタイプがあるので、患者さんの症状や状態に応じて使い分けます。なお、抗うつ薬による効果が現れ始めるまでに通常1週間~3週間かかります。効果が現れないからといって、すぐに薬を止めてしまうのはあまりおすすめできません。もし眠気やふらつき、吐き気などの副作用がでてきてしまうせいで内服の継続が困難となっているのでしたら他の選択肢をご提案することもできますので、ぜひご相談いただければ幸いです。
また、再発を防ぐために、完全に症状が無くなった後も飲み続けることが大切とされています。統計的には寛解後1年以内に40%、15年以内に85%の再発を認めると言われており、治療には非常に長期的な視点が必要です。寛解してから少なくとも1年程度は内服を継続した方が再燃リスクは下げられると診察室ではいつも説明していますが、それまでの経過やその時の状態によってはそれよりも早く中止することもできますので、お気軽にご相談して下さい。ただ一部のお薬は内服を続けておくことによって再発率が下げられる効果が認められているものもありますので、使っているお薬やそれまでの経過によっては「飲み続けておく方が安心」という場合もあります。抗不安薬や睡眠薬などを併用しながら、その時に一番合った選択を一緒に考えていきましょう。
薬物療法以外では、精神療法もよく行われます。これは心理的側面から精神疾患の治療を図る治療法のことであり、医師や心理カウンセラーなどが、患者さんとの対話を重ねて問題解決の方法を探します。例えば、認知行動療法によって物事の捉え方や問題となっている行動を見つめ直し、自分の陥りやすい思考や感情パターンを理解していきます。これによって心をうまくコントロールしていきます。

双極性障害

双極性障害は、気持ちが極度に落ち込む抑うつ状態と、逆に極端に気分が高揚する躁状態を繰り返す病気です。うつ病でも抑うつ状態は現れますが、これとは違う病気なので、治療法が異なります。なお、軽い躁状態などのときは、本人や周囲の方も病気とは気づかず、治療が積極的に行われないという場合があります。しかし、放置していると病状が悪化していくこともあるので注意が必要です。

双極性障害の原因・症状

双極性障害の詳しい原因は分かっていませんが、遺伝や環境、脳内の神経伝達物質の乱れが指摘されています。また、双極性障害による主な症状ですが、主に躁とうつの二つの両極端の症状がみられます。このうち躁の時期には、気分が高揚してエネルギーに満ち溢れたように感じられたり、上機嫌でおしゃべりになったり、じっとしていられなくなったりします。 急にお金遣いが荒くなったり寝なくても大丈夫と言いながらこれまでに興味がなかったようなことをあれこれ計画したりするようになっている方が周りにいればぜひ受診を勧めてください。知らないうちに数千万円の借金を背負ってしまい自己破産に苦心する方をこれまでたくさん見てきました。診断には特に躁状態が持続している期間が重要で、どんなに短くても3-4日はそういった症状が続いている場合にこの診断がつけられます。
一方、うつの時期には、気分がひどく落ち込み、憂うつな気分が続きます。何をしても楽しめなくなり、無気力になります。身体面でも、眠れない、食欲減退、疲れやすいなどの症状が強まります。さらに、物事を悲観的に考えがちになり、将来に絶望したり、自分を責めたりします。双極性障害の方は自殺企図のリスクが統計的にうつ病の方よりも高く 、注意深く経過を見ていかなくてはいけません。

双極性障害の治療

双極性障害の治療は、気分安定薬による薬物療法が基本になります。このお薬には、気分が大きく上下に乱れた状態を安定させる働きがあります。そのため、躁状態のときだけでなく、うつ状態の改善にも効果的です。また近年では抗精神病薬を維持期に使用すると再発リスクが低下させられるという報告もあり、月に1回の注射で薬を飲まなくてよくなる持続性注射剤(LAI)に注目が集まっています。
さらに、認知行動療法などの精神療法を取り入れることもあります。これは、物事の捉え方や問題となっている行動を見つめ直し、自分の陥りやすい思考や感情パターンに気づいて、うまく心をコントロールできるようにしていく治療法です。

強迫性障害

強迫性障害は、ご自身の意思に反して不安や不快な考えが頭に浮かんできてしまうことで、日常生活に影響が出てしまう状態をいいます。こうした強迫観念を抑えようとしても抑えられず、無意味な強迫行為を繰り返すようになります。例えば、手が不潔に思えて過剰に手を洗ってしまうことや、戸締りなどを何度も確認せずにはいられないといったことがあります。 患者さん自身も、「そのような行動はばかげている」「意味がない」と分かっているのですが、やめようとすると強い不安が襲ってくるので症状を抑えることができなくなります。

原因・症状

強迫性障害の発症にはセロトニンの代謝が関係しているとされていますが、詳しい原因は解明されていません。対人関係や仕事上のストレス、妊娠や出産などのライフイベントが発症のきっかけとなっている傾向があります。症状に関していうと、強迫観念と強迫行為の2つの症状が現れます。このうち強迫観念は、頭から離れない考えのことです。強迫行為は、強迫観念から生まれた不安にかきたてられて行う行為です。具体的には、下表のようなことが挙げられます。

治療

強迫性障害の治療法は主に認知行動療法と薬物療法を組み合わせて行ないます。患者さんにもよりますが、抗うつ薬の一種(SSRI)が用いられます。症状が重いケースでは抗精神病薬が使われることもあります。認知行動療法ではとくに曝露反応妨害法が有効です。患者さんを、あえて強迫症状が出やすいような場面に直面させ、しかも強迫行為を行わないように指示します。例えば、汚いと思うものを触って手を洗わないで我慢する、留守宅が心配でも鍵をかけて外出し、施錠を確認するために戻らないで我慢するなど、強迫症状を引き起こす刺激に自分をさらしていきます。こうした課題を続けていくことにより、これまでずっと強かった不安が次第に弱くなっていき、やがて強迫行為をしなくてもよくなっていくという流れです。強迫性障害においては、高い効果が認められています。

急性ストレス障害/PTSD

PTSDは、命に関わるような恐怖などを感じた方に起こりやすい状態のひとつです。いわゆる心的外傷の体験をきっかけとして、体験から時間が経過した後も、そのことが何度も思い出され、恐怖を感じ続けてしまいます。日本では「心的外傷後ストレス障害」とも呼ばれています。つらい記憶が何度も思い起こされるため、常に神経が張り詰めた状態が続いてしまい、日常生活にも支障をきたすようになります。トラウマを体験した後に気持ちが不安定になることは誰にでも起こりうるのですが、1ヶ月が過ぎた後も対処できない状況が続いているときは、この疾患が疑われます。お早めに当クリニックをご受診ください。
また最新のICD11では複雑性PTSDという診断名もでてきていて、持続的なドメスティック・バイオレンス、反復的な児童期の性的/身体的虐待が原因とされることもあります。それらはある種の逃れられない状況において、自身を対人関係や集団における敗者、もしくは疎外された者として感じる体験とも解釈され、例えば、ネット「いじめ」や差別、ハラスメントとの関連を指摘する意見もあります。

原因・症状

PTSDの主な原因は、上述したように「強い恐怖体験」です。これにより、様々な症状が起こります。具体的には、突如としてつらい記憶が蘇ることがよくあります。大災害や事件、事故などに遭遇したときの体験は、ふとした瞬間に、その時の記憶が蘇ることがあります。患者さんによっては、同じ悪夢を繰り返しみるようになるケースもあります。また、つらい記憶が蘇っていない時にも緊張が続き、いつもイライラしている、些細なことで驚きやすい、ぐっすり眠れないなどの症状が続いている患者さんもいらっしゃいます。このほか、感覚が麻痺してしまうケースもあります。つらい記憶による苦しみから逃れるため、ご自身の感情や感覚を閉ざしてしまうのです。これは自然な反応とも言えるのですが、感情が鈍くなってしまうことで、周囲の家族や友人との人間関係に影響がでることがあります。

治療

PTSDの治療では、認知行動療法や薬物療法を行い、心的外傷による症状を和らげていきます。このうち認知行動療法は、物事への考え方に働きかけて、気持ちを楽にしていく治療法です。幾つかの方法がありますが、とくに持続エクスポージャー療法がよく行われます。これは、医師などのサポートを受けたうえで、トラウマの原因となった場面をあえてイメージしたり、避けていた記憶をわざと呼び起こしたりします。これを繰り返していき、恐怖を乗り越えられるようにします。
薬物療法では、主にSSRIを使用します。セロトニンの再取り込みを阻害することにより、つらい症状を改善していきます。その他、症状に応じた対症療法も行っていきます。